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近藤智美のARTとは

芸術の進化の様態のなかに「前芸術直接表現」というべきものがある。1960年代に起こったヒッピーや1950年代に起こったビート運動などはその範疇に入るだろう。人の内部にはどの人間にも「表現欲求」があり、それは特別な技術なしにでも表出可能なものだ。

近藤智美が18歳で広島から上京し、そのまま参加した「マンバ」の終わりなき祭りのごときハレの世界も、一方ではファッションに足をかけながら、他方ではこの「前芸術直接表現」に依拠している。というのも、「マンバ」はファッションとして考えたときには少し「過激」であり、「原初性=プリミティビズム」も有している。90年代から00年代にかけてのファッションは「保守=コンサバ」に軸足があった。あるいはシミュレーションとしてのコンサバからの部分崩しの様相で成立していたといえよう。

だが、グローバルな座標で見ても、「マンバ」スタイルは大衆にショックか嫌悪をもたらすものではなかったか。ためにサブカルチャーを収奪しながら増殖する資本主義的な運動によってさえも「マンバ」スタイルは止揚しきれるものではなかったのだ。もっとも、若い彼女たちは確信犯的にそれを楽しんでいたかジョークで笑い飛ばしてもいた訳で一種の愉快犯だといえるけれども。それだけに個の感性を構わず発信する現代アート行為にマンバは酷似していた。では、直接的表現衝動は本来、ここよりどこに向かうべきなのか。道は2つある。

1つは「マンバ」を卒業し社会に復帰することだ。こうした運動は実は繰り返されている。かつて団塊世代は、新左翼運動の渦中にあった青春期に「反体制」を唱え、毛沢東並みに「造反有理」を主張した。が、卒業と同時に社会に復帰し、企業戦士として今日に至っている。60'sにあったアンダーグラウンド運動に染まった人々もまた、同様である。「世間体」や「情」の狭間にある「個」と「社会」の中で「社会性」という縛りはそれほど人々に過酷に作用する。いつしか最も否定したはずの「常識」のなかに回帰する。せざるを得ないだろう。

いま1つは「芸術家」にでもなり、「個」をキープし「自己表現」を継続することだ。しかし、この道は万人に用意された「道」ではなく、ある種の人々にのみ門戸を開くレアな道であろう。

近藤智美のなかに「前芸術直接表現」から「芸術=アート」に開かれた回路を認識する。

近藤は、マンバから芸術家になる道標上で、ちょっと風変わりな世界の住人たちとのコンタクトを数多く持った。彼女が絵画にめざめたのも、それが契機となっている。幼少期より幻覚を見たり、絵を描くことがとても好きだったといったことのみでは人は優れたアートを生み出すことは出来ないだろう。近藤はある人物に絵の技量を認められ、半ば軟禁状態で絵画を描く契約を交わしたという。

それはわずか2年前のことだ。その過程で、彼女の中のアーティストの因子が外部表出されてくる。そののち近藤は、美術史を学び始め、急速に自己の内部に「芸術的理性」ともいうべきものを獲得してゆく。気になる展覧会にも足しげく通い、「アート日記」もつけはじめた。そこには細かな近藤の展覧会評や技法に関するメモ書きが漫画のようなドローイングとともにびっしりと書き連ねられている。

今回、近藤にとってのまさにアーティスト・デビューとしての初個展が開催されるが、200号大の大作となった「甲でもないし乙でもない」は、前記の軟禁状態で絵を描かされた時に交わされた「契約書」の存在に関するトラウマが表現されている。契約の当事者としての甲と乙はわが国ではポピュラーなものだが、この作品で近藤は、「甲=すっぴんの私」「乙=メイクした私」を置いている。その間には「実印」がしっかりと押され、契約関係は完了しているのだが、実は「甲でもないし乙でもない」といった具合に本当の自己はここにはない。

それではどこに自己が存在しているというのか。そう、それはこの作品の作者の近藤智美それ自体の中にある。近藤はここで、「個」と「社会」に関して再度二重性の重層構造を適用している。「個」と「社会」はいつでも反転し得るし、どちらがわにも真実はない、という主張こそ現在感じられる最もディープな思考ではないか。それは悲しくもあり、激しくもある私たちの生の、とりわけネット社会が「世間」を包括してしまったあとの現実なのだろう。こうした近藤智美の作品を是非直に見ていただきたい。(森下泰輔 本展キュレーター) 


「私は無意味なものを描きたいです。マンバはオタクよりもずっと無意味なものでした」(近藤智美)
マンバ時代の近藤智美(右)
2004年頃
マンバ時代のプリクラ
2004年頃
甲でもないし乙でもない
2011
1620x2606mm(2点一組)
キャンバスに油彩
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